宝笠
宝笠

宝笠印小麦粉

宝笠印小麦粉

特別対談

人生を豊かにしてくれるスイーツを求めて

「宝笠」のアンバサダーであり、注目のスイーツ店『ASTERISQUE』を経営されている和泉光一シェフに、その人気の秘密と今後のお菓子業界などについて、増田製粉所社長・伊藤勇がお話を伺いました。

ASTERISQUEパティシエ 和泉光一・(株)増田製粉所 代表取締役社長 伊藤勇

和泉光一
1970年生まれ。実家の和菓子屋で幼少の頃から職人である祖父、父の姿を見て育つ。調布の名店『サロン・ド・テ・スリジェ』のシェフ・パティシエを長年務め、2012年『ASTERISQUE』オープン。国内外のコンクール受賞経験があり、2006年WPTCでは日本代表キャプテンとして準優勝に導く。

撮影・横山博之 / 文・水野恵美子 / 協力・ドーバー洋酒

いつも魅力的なお菓子づくりをされる和泉シェフですが、
新商品を作り出す際、最も大切にされていることを教えて下さい。

和泉 : まずベーシックなところを、ずらさないようにしています。そこがブレると、うちの店でお菓子を買う意味がなくなるので。見た目は、現代風とか、派手とか、かっこいいとか、いろいろあると思いますが、僕は見えない部分、自分の言葉で言うと、「ほんとうのところ」を大事にしています。
その上で、お客さんがショーケースを見た時に、色が揃ってて「わぁ!」と感じてもらう、そういったイメージです。僕は、ショーケースの中はディズニーのキャラクターと同じだと思っているんです。
たとえばミッキーマウスがショートケーキであれば、ミニーはシュークリーム、そういうベーシックを揃えて、あとは新しいキャラクターを、その時期に合わせて並べ替えていくイメージです。
ケーキ屋さんの夏って、マンゴやパッションが増えてショーケースの中が黄色くなるんですよ。バレンタインの時期は茶色くなる。そういう戦略もありますが、うちのショーケースは年中、色鉛筆を並べたみたいに、カラフルな状態をたもっていたいと考えてます。朝、開店前にショーケースに並んだお菓子を見て、足りない色味があればそれの色を足すこともあります。

伊藤 : お店の人気商品は何ですか?

和泉 : うちの看板はモンブランだと思ってます。なぜかと言えば、僕の出身地、愛媛の栗を使っているんで。愛媛といえばみかんが有名ですが、日照時間などの変化でみかんが育たなくなってきていて、段々畑が栗畑になりはじめてきてるんです。そういう農家さんたちと契約した栗を使っているんです。
和栗を、洋テイストに仕上げてるのですが、できるだけ和っぽくならないように工夫もしています。いまは、土台をメレンゲにして、マスカルポーネを使った和栗クリームという風に使っています。このスタイルで売り出したのは10年ほど前ですが、日曜日には200個ぐらい出てますね。
とは言っても、一番売れるのはショートケーキかな。時期に関係なく、クリスマスでも売れます。粉の食感をあまり出さないように、宝笠を使ったジェノワーズで作っています。

最近、SDGs意識の高まりから、「食品ロス」が大きな課題となっていますが、
その低減方法などお聞かせください。

和泉 : じつは10年前から、自分のパソコンでその日の天気や気温を記録した、自分なりの「食品ロスデーター」を作成しています。いまもそのデータを参考にしながら、その日に出る分のお菓子しか作らないので、うちの店の食品ロス率はほんとに低いです。あと、型抜きして残った生地や、仕込みで余ったダコワーズなど、製造過程で出てしまう端材を使ったお菓子も、作っています。先日うちのスタッフが、そのやり方を動画であげたら、大変な反響がありました。
とにかく昔から、和菓子屋をやっていた親父に「捨てる材料なんて、何もない」って言われ続けて育ちました。あんこを作るための小豆の出汁も栄養あるからって、作物に使ったり、家で食べたみかんの皮ですら捨てずにためて、発酵させて何かに使ってました。
また、野山でよもぎを摘んで饅頭にしたり、とにかく「材料」というものは自然からいただくものなので、無駄にせず、ちゃんと還元しろと、いやというほど言われ続けました。(笑)
だから店のスタッフにも、「僕らは食物連鎖の最高峰にいるし、材料をどうするかは僕ら次第だけど、材料がなければ成り立たない仕事をしてるんだから、材料を大事にしないと、材料をもらえなくなるよ」っていつも言っています。
いまは、SDGsっていうふうに言っていますが、要は昔に教わったことをやればいい、そういった感覚です。僕、靴下に穴があいたら、自分で縫うんです。これも親から教わったことです。そういうことも若いスタッフに、ちゃんと教えていこうと思っているので、厨房で何か壊れたら、まず「直そう」です。最後まで直すことをあきらめちゃダメだってね。だから最近僕はシェフじゃなく、「先生」と呼ばれています。(笑)

話は変わりますが、心身を健康に保つ秘訣などあるのでしょうか。

和泉 : 昔、親方に「社長が倒れたら、店も倒れるぞ」って言われた事がずうっと頭に残っています。だから自分の健康管理には人一倍気をつけてます。まず仕事が終わったら、お菓子のことは一切考えません。お菓子が大好きで、お菓子を仕事にしていますが、人生、お菓子がすべてじゃない、というのが、僕の考え方です。そこの切り替えが、とても大事だと思っています。
だから休日は、サーフィンやゴルフ、あとは釣りなどの趣味に没頭します。とにかく休日は自然の中に身をおいてますね。サーフィンは20代からやっていますが、50代となったいまは、波に身をまかせて楽しむという感じです。でもひとりで、車を運転し海に行き、波と勝負して帰ってくる。頭の中を空っぽにできるサーフィンは、僕にとって特別な時間です。
ゴルフは、仲間たちと楽しい時間を過ごすための趣味です。釣りは「磯を泳ぎながら魚を釣る」という、ちょっと上級者向けと言うか、危険で特殊な釣りをやっています。やっぱり、パティシエゆえの、凝り性なところがありますね、趣味にも。(笑)
とにかく一人の時間と、仲間たちと過ごす時間を使い分け、心のバランスを取りながら、気持ちをリセットさせて、また仕事に打ち込む、という感じです。

最後に、これからお菓子業界を目指す若い人たちに伝えたいことはありますか。

和泉 : 「この仕事は、すばらしいぞ!」って伝えたいですね。

たとえば、このコロナ禍のなかでも、たくさんのお客さんがお店に来てくれました。こういう時期なので僕自身が店の外でお客さん対応するのですが、「こうやってお菓子屋さんに来られることは、幸せだよ」ってたくさんのお客さんに声をかけてもらいました。また別のお客さんからも、 「こんな時期でも、シェフのお菓子を食べながら、家族と一緒に過ごす時間は最高だよ」とか。そんなふうに声をかけられると、胸がいっぱいになります。いまお菓子業界を含め外食産業は苦しい時期にありますけど、この仕事を続けててよかった、と思える瞬間は何度も訪れます。そのことを実感したスタッフはもう店を辞めません。こういった、苦しい環境の中でも嬉しい経験をすることで、もっと修行して、立派なシェフになりたいっていう子もたくさん出てきてます。「この仕事は、すばらしいぞ!」って若い人たちにはほんとうに伝えたいですね。

本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

Masufun

株式会社増田製粉所