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「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023」、16年ぶりの日本優勝の理由とは?

2023/02/14

「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023」表彰式にて、優勝し笑顔を見せる日本代表チーム (c)White Mirror

2023年1月20日-21日にフランス・リヨンで行われた、世界最高峰と称されるパティスリーのコンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023」で、日本代表チームが16年ぶりの優勝を遂げました。それも、5大会連続で準優勝が続いていた中、遂に実現させた悲願の勝利です。

私も現地入りして、全17地域のチームの作品と競技を見ていましたが、今大会ならではの変化や、課題の難しさを感じていました。今回は、2月初めに開催された優勝記念の記者発表会で、選手達が語った思いも紹介しつつ、日本優勝の理由を紐解きます。

 

今大会の変化とは?全4種となった味覚課題の重要性

「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023」日本チームの完成作品 (c)Julien Bouvier Studio

 

「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」は、1989年の第1回より隔年で開催されてきました。前回の第17回より、世界のパティスリー界を牽引してきたフランス人パティシエ、ピエール・エルメ氏が大会会長に就任。新体制下で以前の課題が変更になった部分もあり、味覚部門は「シェア・デザート」、「フローズン・デザート」、「レストラン・デザート」の3つと、今回から新たに、冷凍で味わうひと口大の「フローズン・ロリポップ」という氷菓も加わりました。

採点の点数配分は、味覚部門が50%を占め、25%が飴細工・チョコレート細工・氷彫刻の3種のアートピエス。残りが、仕事のチームワークや衛生、最後にビュッフェテーブルに作品を飾るプレゼンテーションとの点数に半々に振り分けられています。

つまり、味覚で高い点数を得ることが重要で、審査を担当する世界各地の団長達の誰もが美味しいと感じる味でなくてはなりません。実際のところ、日本チームは、味覚部門4種の課題のうち、3種で部門最高点を獲得したそうで、これが優勝のカギとなりました。

 

「気候変動」というテーマで求められたものとオリジナリティ

日本チームの完成作品、チョコレート細工のクジラと「フローズン・デザート」作品「Fluid(流体)」

 

今大会のテーマは、「気候変動」(“climate change”)。これを受けて日本チームは「Renewable Energy(再生可能エネルギー)」というテーマで、アートピエスは「クジラ」を製作。味覚課題は「風」を感じさせるデザインで表現しました。最近の2回の大会でも、自然をアートとして表現するようなテーマが設定されましたが、“地球温暖化”といった現代の課題を反映したテーマは初めてのことです。

また、味覚作品への「色粉」「二酸化チタン」「ラメパウダー」といった着色料の使用は禁止されていました。フランスでは2020年から、その後EUでも人工的な着色料を食品に使うことが禁止されています。今回、アートピエスには使用不可の規定はありませんでしたが、日本チームの作品は、過去と比べて色彩が穏やかな印象でした。選手曰く、強い彩色を施すことも試したけれど、最終的に「自然のものをリアルに表したい」という結論に至ったそうです。これまでの優勝チームのアートピエス作品は、広い会場でも目立つようなメリハリのある色彩が多かったように思いますが、今回、日本がこの作品で優勝を遂げたということは、よりナチュラルなものが求められるという、今後のパティスリー業界の方向性が示唆されているようにも思われました。

 

日本チームの「シェア・デザート」作品「Wind(風)」 (c)Julien Bouvier Studio

 

また、味覚部門では、おそらくテーマに合わせて、森林破壊などが懸念される「熱帯」を思わせる作品が目立ち、マンゴーやパッションフルーツなど、トロピカルフルーツを使ったものが多かったようです。

そんな中、最初の味覚課題の「シェア・デザート」で、日本チームの作品は、チョコレートと間違いなく相性がいいと昔から言われているラズベリーを合わせていました。

見た目についても、複数のチームが、前回の優勝や上位入賞作品の影響を受けた可能性があり、1人分を花弁に見立て、集めて1つの花のようにしたパターンが目立つ中、日本の作品は「Wind(風)」というタイトルどおり、風力発電の“風車”をイメージさせるデザイン。目を引くオリジナリティがありました。

 

日本産の素材のクオリティの高さと、様々なチームワークの発揮

 

日本チームの「フローズン・ロリポップ」作品「Plume(羽)」 (c)Julien Bouvier Studio

 

日本の「フローズン・ロリポップ」作品は、チュイルという極薄の生地で作られた3枚の羽のパーツが、吹くとくるくる回るのが愛らしく、食べる前に回して笑顔を見せていた審査員の様子も印象的でした。

この作品を担当した柴田勇作氏は、徳島県産の「木頭(きとう)柚子」の香りとフレッシュ感に圧倒されたことがきっかけで、2022年に東京から徳島県に移住。独立準備をしつつ、木頭柚子ブランドの商品開発などに関わってきました。柚子は今や、世界各地のパティシエ達から人気のある素材ですが、ヨーロッパでは日本のように新鮮な果実はなかなか手に入りません。柴田氏が箱に入れて見せていたという柚子の果実も、審査員達から注目されたそうです。様々なパーツに柚子を使った「フローズン・ロリポップ」は、エルメ氏にも高く評価され、フランスの新聞にも取り上げられるなど、「KITO」の名を世界に知らしめました。

 

日本チームの「レストラン・デザート」作品「Windmill(風車)」 (c)Julien Bouvier Studio

 

「レストラン・デザート」の制作を担当した髙橋萌氏は、メイン食材として、日本産の洋梨を使いました。ヨーロッパ現地でも洋梨は手に入りますが、「日本の農家さんが作る果物の品質は素晴らしく、ぜひそれを使いたかった」という髙橋氏。本来、1月では日本の洋梨の時期は終わっているため、農家同士のネットワークを活かして、日持ちの長い品種を持つ生産者を探してもらい、使う時に合わせてその洋梨を冷蔵管理してもらいました。

キャラメリゼした温かい洋梨の中心にチョコレートのソース。上にはバニラアイスクリームを忍ばせたサバラン生地や、サクッとしたダクワーズメレンゲ。「温と冷」を共に味わえるのがデザートならではの醍醐味ですが、温かさを保ちつつ提供するのが難しい。これを3人のチームワークでカバーし合い、組み立てから提供まで5分以内というスピードを実現し、1分以内の制限時間のある仕上げの演出として、髙橋氏が審査員達の各皿の中に、液体窒素で瞬間的に凍らせた洋梨のシャーベットを添えて回りました。超低温のために白煙が立ち昇る様子は、会場のモニターで見ていてもワクワクするものでした。

 

3位となったイタリアチームの完成作品 (c)Julien Bouvier Studio

 

裏話を伺うと、前日も電圧のトラブルでチョコレートを温めてとかす機械が機能しないとか、当日朝も電気が通らないといった、様々な問題が起きたそうです。そのために作業が遅れ、柴田氏が氷彫刻に取りかかる時刻も予定より押したと言います。しかし、それまで彼がやっていた作業を他のメンバーが手伝うなど、互いをフォローし合ってピンチを乗り越えたそう。

髙橋氏は、1日目に出場したイタリアチームの作品や作業の素晴らしさに、すっかり気後れしてしまったそうですが、3人で話し合い、自分達は自分達の作品を作ろうと改めて誓い合ったことを話してくれました。

 

今回、2位はフランス、3位はイタリアという結果でしたが、アジアの国々も着実に力をつけていて、今後の大会では、ワールドファイナルの前に、アジアの地域予選に出場しなくてはならない可能性もあるそうです。

3人の選手達は、今後、お世話になった方々への挨拶に一緒に行こう、とも話しているそうです。また、次回の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」をはじめ、これから世界大会に挑戦する若手のパティシエ達に自分達の経験を伝え、今度は支える側になっていきたいとのこと。

日本から世界への挑戦は終わることなく、これからも続きます!

(取材:スイーツジャーナリスト平岩理緒)

 

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株式会社増田製粉所